病院経営のコスト削減とは?種類と5つの実践ステップを詳しく解説
2025.07.22医療経営病院では患者さんの診察と治療のため、医師や医療スタッフによって様々な医療機器・備品が使用されます。
質の高い医療を提供するためには、最新の設備や十分な備品を用意しなければなりません。
しかし、高額な医療機器や設備を導入すると、病院の経営を圧迫する原因となってしまいます。
本記事では、病院のコスト削減に関する方法について、経費の種類や具体的な対策、そしてコスト削減に向けた実践すべき5つステップをあわせて解説します。
病院のコスト削減が重要視される背景
病院の主な収入源は、患者さんの診療をしたのちに診療内容を申請することで得られる「診療報酬」です。
原則2年に1回の診療報酬改定において、近年では診療報酬(本体)は0.5%前後のプラス改定が行われていますが、薬価については1.0%から1.5%程度のマイナス改定が行われているため、全体的にはマイナスであると言えます。
また、近年では感染症の影響によって患者さんの数が減少した状態のまま診療報酬が上がらなかったり、逆に消費税が増税されたりといった外部要因によって病院の経営が苦しくなっています。
国の対策として補助金や助成金制度を設けていますが、一時的な対策であることが多いです。
患者さんの数が減り、経営にマイナスの影響を受けたとしても、病院には最適な診療を行い、安定した経営が求められます。
そのため、病院では以前よりもコスト削減を重視するようになりました。
病院の経営者は徹底的にムダを省き、最適な人員や備品などを見直すことで経営を安定させようと努めています。
病院別に見るコスト比率の違い
病院経営においては、病院の種類や規模、診療科の構成によって、コストの構造が大きく異なります。
特に人件費や医療材料費、設備維持費の割合は、施設ごとにばらつきが見受けられることが多いです。
たとえば、急性期病院では高度な医療を提供するため、多職種の人員配置や高機能な医療機器の運用が求められます。
そのため、一般病院と比較して人件費や設備費の割合が高くなることがあります。
一方、療養型病院やリハビリテーション病院では、比較的単価の低い長期入院が中心となるため、医療材料費の比率が抑えられる傾向にあります。
このように、病院ごとの機能や役割に応じて、コスト構造の最適化は異なります。
経営改善を進めるには、自院のコスト比率を可視化したうえで、機能特性に沿った削減アプローチを検討することが重要です。
病院経営におけるコストの種類
病院においてコスト削減を実施する際は、具体的に何にいくらのコストがかかっているのかを理解することが重要です。
下記にて、病院を経営する際に発生する主なコストの種類をご説明します。
医療材料費
病院における医療材料費とは、医薬品や診療材料など、日々の診療を行う上で必要となるものを購入する際に発生する費用を指します。
医薬品や診療材料は、急性期病院の場合、支出のうち35~45%程度の割合を占めると言われています。
そのため、医療材料費を見直すことで経営を改善できる可能性が高いことから、コスト削減の対象になることが多いです。
種類や数量の管理が不十分な場合、無駄な在庫や過剰発注によりコストが増大するため、以下のような対策が効果的です。
- 使用頻度の高い材料の単価交渉を実施する
- 代替可能な汎用品への切り替えを検討する
- 在庫の一元管理体制を整備する
- 医療材料の消費データを分析し、適正な在庫水準を維持する
経費・固定費
病院で発生する経費には、リース料や福利厚生費、旅費交通費、光熱費、保険料などが含まれています。
近年では流行病の影響やインターネット技術の発展などによって、旅費交通費を抑えられるWeb会議を導入する病院が多くなりました。
また、リース料を抑えるために必要最低限の機能を備えた、低額な医療機器を導入する病院もあります。
経費や固定費は定期的な見直しと、契約条件の精査が重要で、以下のような改善策が挙げられます。
- 電力・ガス会社の見直しによる料金の適正化
- 使用していないサービスや設備の契約解除
- 固定電話・インターネット回線の一元契約
- 必要性の低い備品購入の抑制
委託費
病院における委託費とは、病院が外部の業者に一部の業務を外注する際に発生する費用を指すものです。
具体的には検査・給食・清掃・院内物流・警備・点検などが委託業務に含まれており、サービスを受けるために外注先へ費用を支払います。
医師や看護師が患者さんの診療やリハビリに集中できるように、病院は診療以外の業務を外注するケースが多いです。
委託費は、外部業者に委託する業務内容や範囲によってコストに差が出やすい項目です。
見直しに有効な方法は、以下の通りです。
- 委託先の実績や業務範囲の妥当性を確認する
- 複数社から見積を取り、競争性を持たせる
- 委託業務の一部を院内スタッフに切り替える
- 契約内容と実際の業務が一致しているか定期的に点検する
減価償却費
減価償却費とは、病院が保有する建物や医療機器などの固定資産について、購入額を耐用年数に応じて分割し、その期間ごとに費用として計上する勘定項目です。
病院における主な対象は以下のとおりです。
- 医療用機械備品:CT装置、MRI装置、手術機器など
- 建物・建物附属設備:病院建物、空調・電気設備など
- 情報システム:電子カルテや関連システム
車両:訪問診療車、ドクターカーなど
減価償却費は、各病院の設備投資状況によって異なりますが、医業収益に対して一定の割合を占める費用項目となっており、病院経営に与える影響は小さくありません。
高額かつ耐用年数が短いものほど毎年の減価償却費は高額になる傾向にあるため、病院は費用と耐用年数を考慮して購入する必要があります。
そのため、病院は購入にあたり以下の観点を考慮する必要があります。
- 購入時の価格が高額なことに加えて耐用年数が定められているため、長期的な影響が大きい
- 更新や買い替えのタイミングを誤るとコストが増加する
- 保守・管理費用を含めたライフサイクルコストを検討する
- 適切な資産台帳の整備が必要不可欠である
とくに医療機器の導入では、最新技術の選定や長期的な稼働効率、保守・更新費用まで含めて検討することが重要です。
病院経営のコスト削減で取り組むべき費用項目
病院経営におけるコストダウンでは、医療の質を下げずに取り組む必要があります。
こちらでは、病院経営のコスト削減で取り組むべき費用項目についてご説明します。
医療材料費の購入価格の適正化
先述の通り、病院では様々な医薬品や診療材料を購入し、診療や事務作業の際に使用しています。
それら材料のなかには毎日使用するものもあれば、使用頻度が低いものもあります。
しかし、業者が適正価格を提示しておらず、市場価格とは乖離した状態で購入している商品もなかには含まれているものです。
医療材料費を抑えるためには、仕入価格(購入価格)の適正化を図りましょう。
複数の業者に相見積もりを取ったり、市場価格を把握し適正価格に向けた交渉を行ったりすることが価格の適正化につながります。
設備管理費
病院ではCTスキャンやMRIといった、様々な医療機器を導入しています。
なかには定期点検が必要なものや、消耗品を使用するものといった、ランニングコストが発生するものもあります。
そのため、設備管理費を抑えるためには外注しているサービスの見直しを検討しましょう。
たとえば、消耗しにくい部品に交換してもらう、技術料や訪問出張費を抑えてもらうといったことが挙げられます。
また、施設の清掃については汚れが付着しにくい素材に変更することも、設備管理費を抑えるための方法のひとつと言えるでしょう。
委託費
病院では患者さんの診療行為に集中するため、警備会社やメーカーなどに様々な業務を外注しています。
快適な診療ができる一方、外注するほど高額な委託費が必要になることから、経営を圧迫する要因にもなります。
委託費を抑えるためには、本当に外注が必要なサービスなのかを見直すことが重要です。
たとえば、清掃スタッフを雇用して外注を無くしたり、配置している警備員の数を減らしたりといったことが挙げられます。
自院でできる作業は無いのかを見直すことが、委託費を抑えるためには重要な考え方だと言えます。
経費
医療従事者のなかには、医療のスペシャリストである一方、コスト意識が低い方もいらっしゃいます。
そのため、経営をするうえで不要な経費を計上したり、過剰な経費がかかったりすることがあります。
経費を抑えるためには、病院全体でコスト削減の意識を持つことが重要です。
たとえば、在庫商品を優先的に使用したり、使えなくなるまで備品を使い切ったりすることが挙げられます。
経費を削減しても医療の質が下がることはほとんどないため、すぐに始められる対策であることが魅力です。
病院のコスト削減で取り組むべき対策
先述の通り、病院では様々な経費が発生するため、スタッフ個人がコスト削減の意識を持つことが重要です。
下記にて、経費を削減する方法の具体例をご紹介します。
通信費・水道光熱費・保険料の見直し
通信費や水道光熱費、保険料は病院を運営するうえで不可欠なものである一方、経費内で占める割合が高いものでもあります。
これらの経費を削減するためには、使用していない医療機器は電源を切る・省エネの設備を導入するといったことが挙げられます。
たとえば、CTスキャンやMRIは待機時でも多くの電力を使用するため、使わないときは電源を切っておくことも検討しましょう。
また、トイレについては、流す際に多くの水を使うものよりも、少量の水で同等の効果を得られるものを導入する方が節水効果は当然高いものです。
ほかには、様々な企業に相見積もりを取って比較することもコスト削減における有効な方法と言えます。
委託費の見直し
委託費を見直すためには、複数企業への相見積もりを取ることがおすすめです。
たとえば、A社が毎月50万円で、B社が同様のサービスで毎月40万円といったことがあります。
この場合、B社に依頼したほうが委託費を削減できることは、お分かりいただけるでしょう。
実際に、現在お付き合いしている業者以外に見積もりを取ったところ、大幅に委託費を削減できた病院は多くあるものです。
また、相見積もりを取るなかで様々な企業からの提案内容を精査し自院にとって適切な
サービス内容に見直すことも非常に重要であると言えます。
医療機器のリストアップ
医療機器のリストアップは、コスト削減の第一歩となります。
保有機器の使用頻度や更新時期を可視化することで、運用の無駄や重複購入を回避できます。
また、機器の稼働状況を把握することで、不要な保守契約やリースの見直しも可能になります。
定期的なリストアップは、設備投資の計画立案にも有効です。
適切な台帳管理を行うことにより、コスト構造の最適化と業務の効率化を同時に実現できます。
医療機器の保守管理費用の見直し
医療機器の保守管理費用は、契約内容や保守頻度により大きく異なります。
保守対象となる機器を精査し、実際の使用状況と照らし合わせることで、過剰な契約を防ぐことが可能です。
また、メーカーや保守業者の変更によって、費用の最適化を図る病院も増えています。
複数機器を一括で保守契約する「包括契約方式」の導入も有効です。
費用対効果を定期的に評価し、最適なメンテナンス体制を維持することが重要です。
ベンチマーク分析を実施する
自院が負担している費用が適切なのかを調べるためには、ほかの病院の経営状況と比較すると良いでしょう。
ベンチマーク分析では自院と他院の経営状況を比較して、どの費用を多く使用しているのかを知ることができます。
たとえば、警備に関する委託費用が他院よりも高額だった場合、人員配置の見直しや価格交渉などを行うことが挙げられます。
また、粗利率や営業利益率については、どこにいくらの費用を支払っているのかを知ることで、改善の糸口を見出せるでしょう。
このように、自院の経営改善において他院との比較は重要な要素だと言えます。
当社サービスページ:MRPベンチマークシステム
共同購入を検討する
共同購入とはまとめ買いと同義で使われる言葉であり、複数の施設が共同で購入することで商品ひとつあたりのコストを抑える方法です。
病院では様々な備品を使用しているため、無くなったときは都度発注をして補充します。
しかし、複数の業者を利用している場合はまとめ買いが難しいため、共同購入によるメリットを見出すことは難しいものです。
共同購入によって単価を下げるためには、業者を絞ってお付き合いすることがおすすめです。
また、ひとつの業者にまとめて発注することで管理が容易になる点も共同購入のメリットだと言えます。
当社コラムページ:医療業界の共同購入とは?コスト削減が病院経営の課題解決につながる
物品管理を徹底し、管理体制を整備する
物品管理とは、病院を運営する際に使用した医療機器・備品の数量や状態、保管場所などを管理することです。
病院では多くのスタッフが様々な医療機器・備品を使用しているため、管理が煩雑になってしまうことが多いです。
適切に管理ができていなかった場合、必要なものを探したり不要な発注をしなければならなかったりします。
物品管理は費用を掛けず、すぐに実施できる対策であるため、実施していない病院は取り入れることをおすすめします。
当社コラムページ:医療現場の物品管理とは?効率化する方法と管理システムをご紹介!
医療材料費の適正化
医療材料費は、調達方法や使用管理の改善によってコスト削減の余地がある分野です。
具体的には、使用頻度の高い消耗品の購買を共同購入に切り替えたり、在庫管理の精度を高めたりすることで無駄な発注を防ぎます。
また、価格交渉力の向上や、ベンダーの選定を見直すことも重要です。
医療の質を損なわずに、合理的な運用体制を構築することが、持続可能なコスト削減につながります。
当社コラムページ:病院経営を支える材料費率の改善|要因分析と実践策を解説
人件費の最適化
人件費の削減は、単なる人員削減ではなく、業務の見直しと適正配置を前提に進める必要があります。
業務ごとに専門性を要するかどうかを分析し、医師・看護師・事務職の役割を明確化することで、過剰な負担を軽減できます。
たとえば、定型業務などを移管するタスクシフトや、BPO(業務委託)を活用した分業体制の構築も効果的です。
あわせて、勤怠管理の徹底や、シフト最適化による人件費の抑制も検討すべき施策です。
病院の経営コストを削減するための5つのステップ
病院のコスト削減を持続的に実現するためには、場当たり的な対応ではなく、体系的なステップを踏んだ取り組みが求められます。
以下では、削減効果を最大化し、定着させるための5つのステップを解説します。
1. コスト削減のプロジェクトを発足する
コスト削減はトップダウンでの実現が難しいため、経営陣を中心としたプロジェクトチームを立ち上げることが重要です。
経営企画部門や現場のリーダーを巻き込み、実態に即した課題抽出と合意形成を図る体制を構築します。
部署横断のチームにより、全体最適の視点から方針を決定できるようになります。
また、プロジェクトの初期段階で目的やスケジュール、評価基準を明確にしておくことが、各部門の納得感と協力体制を高めます。
経営陣の強いリーダーシップも、推進力を維持する上で不可欠です。
2. コスト分析を実施し、現状を把握する
次に、財務データや診療報酬の内訳、人件費・材料費などの勘定科目ごとに分析を行います。
その際、病床単位・診療科単位など多角的にコスト構造を可視化することで、削減可能な領域とそうでない領域を明確にします。
データに基づいた客観的な把握は、意思決定の精度を高めます。
さらに、過去との比較や他院とのベンチマークを行うことで、自院特有の課題や改善のヒントを得られるでしょう。
3. 削減対象の優先順位を決める
分析結果をもとに、効果が大きく、かつ実現可能性の高い施策から順に着手します。
たとえば、人件費の最適化は中長期での成果を見込める一方、医療材料費の交渉や在庫管理改善は短期的に実行可能です。
現場への影響度やリスクも考慮した優先順位付けが不可欠です。
あわせて、患者サービスや医療の質を損なわない範囲での実施を徹底しなければなりません。
優先順位が明確であれば、限られた資源でも最大限の成果を導くことが可能になります。
4. 具体的な達成目標を決める
削減目標は、単なる「コストを減らす」という曖昧なものではなく、数値目標として設定します。
「6カ月以内に医療材料費を5%削減」「人件費の外部委託比率を20%増加」など、実行可能かつ測定可能な目標を定めることが必要です。
この目標はチーム全体で共有し、進捗管理を行う基盤となります。
また、目標は段階的に設けることで、短期と中長期の成果をバランス良く見込めます。
評価指標(KPI)と連動させれば、各施策の効果測定も明確になります。
5. 成果とプロセスを評価する
取り組み後は、成果を評価するだけでなく、どのようなプロセスが成功を導いたのか、または課題が残ったのかを検証します。
KPIのモニタリングを継続的に行い、成果が出ている施策は他部門へ展開し、改善が必要な分野には再調整を加えます。
このプロセスを繰り返すことで、業務改善が文化として定着します。
評価のタイミングはあらかじめ設定し、関係者全体でフィードバックを共有することが重要です。
これにより、現場の意欲向上や組織全体の学習効果を高められます。
当社事例ページ:コンサルティング事例
病院のコスト削減で押さえておきたいポイント
病院のコスト削減における重要なポイントは、「交渉」と「継続」です。
病院では様々な業者と提携して業務に臨んでいることから、外部の関係者と話す機会が多くあります。
コスト削減の際には、価格交渉やサービスの変更などについて話すため、経営者や担当者には交渉術が求められます。
コスト削減は一時的に実施するものではなく、継続して行うことで効果が最大化するものがほとんどです。
たとえば、個人がコスト意識を持ち、無駄遣いを減らすことは継続した対策だと言えます。
コスト意識に関する注意は費用を掛けずに実施できる対策であるため、経営者は各スタッフに定期的に伝えることが重要です。
また、スタッフからコスト削減に関する相談・提案を受けることがあるため、経営者は積極的にスタッフの話を聞き入れましょう。
スタッフ全員でコスト削減に臨むことで、医療の質を下げずに経営状況を改善することができます。
おわりに
本記事では、病院のコスト削減に関する方法について、コストの種類や取り組むべき対策を解説しました。
近年では感染症の影響で患者さんの数が減ったり、診療報酬が厳しくなったりしたことで経営を圧迫されている病院が多くあります。
そのため、病院では医療材料費や経費・固定費、委託費、減価償却費のコスト削減が求められています。
費用構造を可視化し、人件費や材料費の見直しに加えて、他院との比較や外部支援の活用も有効です。
下記は病院経営のコスト削減するための、5つのステップです。
- コスト削減のプロジェクトを発足する
- コスト分析を実施し、現状を把握する
- 削減対象の優先順位を決める
- 具体的な達成目標を決める
- 成果とプロセスを評価する
病院のコスト削減における重要なポイントは「交渉」と「継続」であることから、継続してコスト削減に向けた改善を重ねていく姿勢が欠かせません。
不要なコストを削減するために各施策を段階的かつ戦略的に進め、持続可能な運営体制を築くことで、長く患者さんに愛される病院経営につながります。

MRP医療コラム編集部

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