2024年の診療報酬改定では何が変わる?目的や変更点について解説
2023.11.17医療経営厚生労働省より、2024年度の診療報酬改定について発表がありました。
診療報酬は病院が患者さんを診療したあと、社会保険診療報酬支払基金に請求することで受け取ることができる収入です。
病院の経営に関わる重要な要素である診療報酬が、今回の改定によってどのように変わるのか気にされている方は多いのではないでしょうか。
本記事では、2024年の診療報酬改定では何が変わるのかについて、目的や変更点とあわせて解説します。
2024年の診療報酬改定では何が変わる?
厚生労働省の発表によると、2024年の診療報酬改定では下記が行われます。
- 診療報酬
- 介護報酬
- 障害福祉サービスなどの報酬
これら3つが同時に改定されることを「トリプル改定」と呼び、6年に一度実施されます。
診療・介護・障害福祉サービスはそれぞれが密接に関係しており、各サービスの関係者どうしが意見交換を行います。
また、2024年度の診療報酬改定に向けた議論が進んでおり、医師の働き方改革として「勤務医の新たな労働時間制限」の適用や、第8次医療計画が反映されていきますが、これらの実現に際して、医療DXに対しての関心もより高まってきております。
他にも入院や外来、在宅をはじめ、がんや感染症、難病の対策などへの取り組みを診療報酬でどのように支えていくのかという点も重要視されています。
トリプル改定の背景
今回のトリプル改定が行われる背景には、「2025年問題」と「2040年問題」があります。
2025年問題とは、1947年から1949年生まれの、いわゆる団塊世代の方が75歳に達する年です。
現在、日本では深刻な高齢化社会を迎えており、労働者が減ると社会保険料の負担が増えてしまいます。
高齢者は中年以下の方と比べて免疫力や体力などが低いことから、病気やケガなどさまざまなリスクが高くなります。
2025年を迎えると後期高齢者が多くなることから、今よりも深刻になることが考えられます。
これらの問題をまとめたのが、2025年問題です。
2040年問題も本質は同様で、1971年から1974年にあったベビーブームの際に生まれた方が65歳以上になる年齢です。
少子化による人口減少と、高齢者が増加することによる就労者への負担の増大が課題となっています。
診療報酬改定の目的
2024年の診療報酬改定のポイントとして、医療現場の負担を減らすためDX化の推進や働き方改革などが挙げられます。
医療の現場は多忙なだけではなく、少しのミスでも患者さんを命の危機にさらしてしまう可能性があるため、常に緊張感があります。
そのため、医師のなかには過労により体調を崩してしまう方や、そもそも医師を目指したいと思う人が少なくなりました。
結果として、現代の日本では少子高齢化だけではなく、医師不足も深刻な問題となっています。
つまり、医師については需要と供給が合っていない状態であるといえるのです。
国としては、過酷な労働環境で業務を行う医師をはじめ、看護師など医療従事者の負担を軽減する必要があります。
そのためには特定の条件を設けることによる診療報酬の加算や、さまざまな機器・システムを活用したDX化の推進が挙げられます。
これらのことから、診療報酬の改定は医療業界だけではなく、日本全体に関わる重要なものであるといえます。
下記、診療報酬改定DXと、医療DXに関するテーマです。
共通算定モジュールの開発・運用
- 診療報酬の算定と患者負担金の計算を実施
- 次の感染症危機等に備えて情報収集できる仕組みも検討
共通算定マスタ・コードの整備と電子点数表の改善
- 基本マスタを充足化し共通算定マスタ・コードを整備
- 地単公費マスタの作成と運用ルールを整備
標準様式のアプリ化とデータ連携
- 各種帳票の標準様式をアプリ等で提供
- 施設基準届出等の電子申請をシステム改修により更に推進
診療報酬改定施行時期の後ろ倒し等
- 診療報酬改定の施行時期を後ろ倒しし、システム改修コストを低減
- 診療報酬点数表のルールの明確化・簡素化
診療報酬改定が2ヶ月後ろ倒しになる?
本来、診療報酬の改定は4月1日に実施されます。
しかし、2024年度の改定については2ヶ月後ろ倒しの6月1日に実施されることが決まりました。
2ヶ月間の猶予が設けられた理由は、医療DXの推進に関する負担の軽減が挙げられます。
2024年に医療機関などの各システム間で使われる共通言語となるマスタや、それらを活用したモジュールを本格的に提供します。
しかし、医療機関によっては対象となる言語やマスタが使われていないものがあり、ほとんどの場合、これらの変更は機器メーカーなどが対応しますが、変更のためには多くの作業工数が発生します。
このように、2ヶ月間の後ろ倒しが決定した理由には、作業時間を確保することが目的となります。
償還価格・薬価それぞれの改定スケジュール
出典:中医協資料「中医協 薬 - 25 .6 .21」
償還価格・薬価それぞれの改定スケジュールは上表の通りとなります。
2024年度の診療報酬改定に伴い、施行時期は薬価が4月、償還価格は6月に変更となります。
これまで、ベンダや医療機関などにおいて、診療報酬改定に短期間で集中的に対応するため大きな業務負担が生じていましたが、時期をずらすことによって作業負担の平準化を図ることが目的と考えられるでしょう。
診療報酬改定のスケジュール
診療報酬の改定は、下記のスケジュールで進行します。
2023年4から9月 | 総論の審議 |
2023年10から12月 | 各論の審議 |
2023年12月 | 改定の基本方針 |
2023年12月 | 改定率の審議 |
2024年1月 | 諮問 |
2024年1月 | 公聴会の開催 |
2024年1月 | 個別改定項目案の立案 |
2024年2月 | 個別改定項目・答申の立案 |
2024年3月 | 点数・算定要件・施設基準の告示情報 |
2024年3月 | 疑義解釈および団体からの質疑応答 |
2024年4月1日 | 薬価改定の施行 |
2024年6月1日 | 施行 |
このように、診療報酬を改定するためには関係者がさまざまな内容について話し合い、慎重に決定しなければなりません。
医療従事者は決定した診療報酬に則り、正しい記載をして社保に申請し、報酬を受け取ります。
診療報酬はどうやって決まる?
診療報酬の改定は2年に1度行われており、改定の前年度の夏頃から審議が行われます。
診療報酬の項目は5,000件以上にものぼることから、1回の改定では200から300件程度の項目が対象となります。
審議の際は日本医師会や医療に関する学会、団体などが現場の意見を取りまとめて厚生労働省へ要望書を提出します。
改定率や基本方針が決定したあとは、具体的に診療報酬改定の中身について話し合います。
話し合いの際は、下記の三者がそれぞれの立場について議論を交わします。
- 報酬を受け取る「診療側委員」
- 報酬を支払う「支払側委員」
- 公益を代表する「公益委員」
これらを取りまとめているのが、「中央社会保険医療協議会(中医協)」です。
3者が協議したうえで決定した改定案をまとめたあとは、厚生労働大臣に報告書を提出します。
改定案が採用されたあと、3月上旬に各医療機関へ診療報酬改定に関する連絡を行います。
しかし、2024年の改定案ではシステム等の作業時間を確保するため、後ろ倒しの6月に改定が行われます。
これまでの診療報酬改定
下記、これまでに実施された診療報酬改定の一例です。
年度 | 考え方 |
平成18年 |
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平成20年 |
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平成22年 |
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平成24年 |
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平成26年 |
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平成28年 |
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平成30年 |
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令和元年 |
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令和2年 |
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これらより、診療報酬の改定は医療の質を高め、適時適切に医療サービスを受けることのできる環境作り、また医療業務の効率化などが目的であるといえます。
改定時には病院経営者など、診療側委員が代表して現状を述べます。
支払側委員と公益委員はそれらの意見を聞き、三者間で報酬や方針の改定などを決定します。
負担が大きい医療業務を効率化し、医師や看護師を含めた医療従事者がやりがいを持って業務に臨んでもらうために、改定が必要と考えられます。
おわりに
本記事では、2024年に行われる診療報酬の改定についてご説明しました。
2024年は診療報酬だけではなく、介護報酬や障害福祉サービスなどの報酬も改定される「トリプル改定」の年です。
診療報酬改定の目的は、医療従事者の負担軽減や適正な報酬価格の決定などが挙げられます。
医療従事者は報酬を申請する際、改定後の正しい点数で提出するようにしましょう。
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- 2024年度の診療報酬改定に伴う償還材料の適正価格見直しの方法論
- 他施設の契約及び適正価格の見直しスケジュールなど検討事例の紹介
- 診療報酬改定に向けた材料マスタの適正管理について(マスタ管理や医事請求について) 等
MRP医療コラム編集部
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