病院経営が赤字になる主な要因と黒字化に向けた8つの対策
2023.11.17医療経営病院では、日々多くの患者さんが訪れ、医師や看護師は診療や事務作業などに追われています。
患者さんの容態の回復や症状の緩和などが目的であることから、社会貢献度がとても高い職業だと言えます。
しかし、病院は社会貢献の施設であると同時に、一般企業と同じく利益を出さなければその存続が危ぶまれるため、黒字で安定した経営が求められます。
病院の経営が赤字になる要因には、何が含まれているのでしょうか。
本記事では、病院経営が赤字になる原因と、黒字化のための8つの対策について解説します。
病院経営が赤字になる要因とは?
昨今の病院経営が赤字になる主な要因には、下記のように「コロナ禍の影響」と「人件費の増加」が挙げられます。
コロナ禍の影響
2019年12月頃より、コロナウィルスが世界中に拡大し、さまざまな産業に大きな打撃を与えました。
病院も例外ではなく、収益が増加すると思われましたが実際は経営が大きくマイナスとなる施設がほとんどでした。
コロナウィルスの感染力や症状の重さなどから入院する患者さんが増加しましたが、あまりにも患者さんの数が多くなってしまいました。
そのため、病院は一時的に患者さんの受け入れを拒否せざるを得ない状況となり、診療が行えなくなったのです。
診料は患者さんの診察や処置等によって診療報酬を申請することで受け取ることができる、病院にとって重要な収入源です。
感染拡大を防止する目的で患者さんの受け入れを断った結果、収入源が断たれてしまって経営を圧迫することもあるでしょう。
人件費の増加
医師や看護師など医療従事者は、現在深刻な人材不足に陥っています。
一つの理由としては勤務内容と報酬のバランスにあり、激務であるにも関わらずそれに見合ったお給料を受け取れないことも挙げられます。
医師や看護師は人命にかかわる重要な業務を行うため、高い集中力が求められるものです。
しかし、人材不足によって十分な休息を取ることができなくなってしまい、現存の従業員で補填しなければならいないような状況もあるでしょう。
新たな人材を募集する際も求人サイトへの掲載など、採用にはさまざまなコストが発生します。
低賃金により医療従事者の確保が困難となり、人材不足がさらなる賃金抑制を招くという負の連鎖が、経営を圧迫する要因となっています。
2024年度診療報酬改定と病院経営への影響
2024年度の診療報酬改定は、多くの医療機関の収益構造に大きな影響を与えました。
改定内容を理解し、財務健全性を保つには、診療報酬の改定内容を正確に把握し、戦略的に対応することが求められます。
診療報酬改定による収益への直接的な変化
2024年度の改定では、生活習慣病管理料の見直しや在宅医療の評価強化が見られた一方で、入院料やリハビリテーションにおける包括評価が厳格化されています。
結果として、診療単価ごとの収益性が再構築され、従来の運営体制のままでは赤字リスクが高まる可能性があります。
診療内容と報酬体系の整合性を確保し、適正請求と業務最適化を進めることが不可欠です。
DPC病院・慢性期病院への影響比較
DPC(診断群分類包括評価)とは、急性期入院医療を対象とした診療報酬の包括評価制度です。
DPC制度に基づく急性期病院では、診療密度や病床稼働率の管理がより厳密に求められます。
一方、慢性期病院では包括報酬の対象範囲が広く、在院日数や人件費の適正管理が収支改善に直結します。
各機能に適した診療報酬戦略の構築が、黒字化の鍵を握るといえるでしょう。
赤字経営のリスクと影響
病院経営が慢性的に赤字に陥ると、財務指標の悪化だけでなく、医療の質や労働環境にまで深刻な影響を及ぼしかねません。
収益構造の脆弱化は、組織全体の持続性を損ない、最終的には地域医療の供給体制にまで波及するおそれがあります。
継続的な赤字が与える経営上の影響
赤字が続く病院では、運転資金の確保が困難になり、設備投資や人材採用が制限されます。
老朽化した医療機器の更新が滞れば、安全性や精度の面でリスクが高まります。
また、債務超過に陥ることで、金融機関からの信用低下を招き、追加融資や補助金の獲得も困難になります。
経常利益がマイナスの状態が続けば、病院の存続自体が危ぶまれる状況に陥りかねません。
医療の質と職場環境への波及
赤字経営が常態化すると、医師や看護師の人員配置に余裕がなくなります。
その結果、業務負荷が増加し、医療事故やインシデントのリスクが高まります。
また、人件費の抑制による離職率の上昇や、職場の士気低下も無視できません。
職員の疲弊が進行すれば、患者対応や診療内容の質にも悪影響を及ぼします。
財政悪化は、医療提供体制の根幹に関わる重大な課題です。
病院経営の黒字化に向けた8つの対策
赤字経営に陥ってしまっている病院の経営を立て直すには、やみくもな対策ではなく、明確なプランニングと実行、実行後の評価が重要です。
こちらでは、病院経営を黒字化させる対策をご紹介します。
現状把握|コストの実態を知り、業務を効率化
まずは、病院全体で発生しているコストを確認します。
下記、病院で発生するコストの一例です。
- 人件費
- 医薬品・診療材料費
- 外注委託費
- 広告費
- 研究開発費
- 教育費
- ランニングコスト
- 減価償却費
これらのなかには、ムダに使ってしまっているものもあるかもしれません。
たとえば、ランニングコストのなかに含まれる光熱費は、削減できるコストのひとつと言えます。
使っていない機器の電源を切る、院内全体をLEDに変えるなどは、すぐに取り組めるコスト削減です。
黒字化を始める際は、まず病院全体の現状を確認するようにしましょう。
経営戦略|適正な経費の算出を行い、医療ニーズに応える体制構築
経営戦略は病院だけではなく、企業などでも必要不可欠のものであり、経営の根幹に当たるものです。
戦略のなかには、下記のようなものが挙げられます。
- 紹介患者数の増加を重要評価指標として位置付け、多くの患者さんに来てもらう
- 高度専門医療に必要な医療機器を導入し、ほかの施設にはない診療を提供する
しかし、経営を続けているうちに業績が伸び悩む・赤字に転落してしまうことがあります。
そのような場合、経営戦略を見直してみましょう。
赤字になった原因を突き止めることによって、黒字化するための対策を練ることができます。
組織体制|組織マネジメントを見直し、院内の生産性向上
マネジメントとは、経営戦略や経営方針に基づいて従業員が行動するように管理を行うことです。
病院には医師や看護師だけではなく、調理師や薬剤師が在籍しているところもあります。
役職や業務内容が異なる方でも、病院としての目標は患者さんの回復であると言えます。
患者さんを回復させるためには、異なる役職や業務のスタッフ同士が連携し、責任感をもって業務に臨む必要があります。
適切なマネジメントを行うことで、病院全体の業務効率を改善することができるため、黒字化に近づくことができるでしょう。
集患対策|地域の患者の囲い込み
地域に根ざした医療提供体制を構築することで、安定した患者数の確保が期待できます。
具体的には、予防医療や在宅医療を強化し、地域住民の信頼を獲得する施策が有効です。
医療機関としての特色を明確にし、選ばれる病院となる取り組みが求められます。
患者紹介体制の強化
紹介元となるクリニックや他病院との連携体制を整備することで、紹介件数の増加が期待できます。
地域連携室の機能強化や紹介患者への診療結果のフィードバックなど、信頼構築が重要です。
相互協力を促進することで、患者の流入経路を安定化させることが可能です。
経営分析と外部支援の活用
病院の黒字化に向けた取り組みでは、自院の経営状況を正確に把握することが出発点となります。
医業利益率や病床稼働率、人件費比率などの経営指標を分析し、課題の特定と対策の優先順位づけを行うことが重要です。
内部だけでの分析には限界があるため、外部支援を活用した客観的な評価も有効です。
たとえば、経営改善に実績を持つコンサルティング会社の支援を受けることで、データに基づいた意思決定が可能になります。
外部専門家によるアドバイスは、制度改正への対応やコスト構造の最適化など、多角的な観点からの戦略策定を促します。
また、国や自治体が提供する経営支援制度を活用することも選択肢のひとつです。
病院機能評価や財務諸表の分析結果をもとにした補助金・助成金の申請は、財務面の安定に貢献します。
医療DX推進による業務効率化や、外部パートナーとの共同研究による収益源の多様化も含め、持続可能な経営体制の構築が求められます。
外部支援の導入は、病院が自らの強みと弱みを可視化し、将来に向けた明確な成長戦略を描くうえで極めて有効です。
DPC・レセプトデータを活用した病床戦略
DPCやレセプトデータは、病院経営における意思決定を支える重要な情報源です。
これらのデータを活用することで、診療科ごとの稼働状況や収益性、患者属性などを定量的に把握できます。
病床機能の再配置(急性期病床から回復期・慢性期病床への転換など)や、診療報酬の最適な算定方法の検討に役立つだけでなく、経営改善に直結する分析が可能です。
たとえば、稼働率が低い病床を地域包括ケア病床に転換することで、効率的な運用と収益性の向上が期待されます。
データを継続的にモニタリングする体制を整えることで、変化に即応した戦略展開が実現できます。
KPIの可視化と現場フィードバック
病院経営の質を向上させるには、KPI(重要業績評価指標)の設定と共有が不可欠です。
医業利益率、平均在院日数、患者満足度、紹介患者数などの指標を部門別に可視化し、全職員が共通認識を持つことが求められます。
また、可視化された数値をもとに、現場への迅速なフィードバックを行う仕組みが重要です。
定例の経営会議やスタッフミーティングを通じてKPIの進捗を確認し、目標達成に向けた改善アクションを即時に実行できる環境を整える必要があります。
KPIとフィードバックのサイクルを定着させることにより、組織全体のPDCAが機能し、経営の安定化が図られます。
今後、病院経営に求められることとは?
先述の通り、病院には赤字に陥ってしまうさまざまな要因があります。
また、黒字化に成功しても、下記のように解決するべきさまざまな課題が含まれているものです。
- 離職率の低減
- コストの最適化
- ITツールを活用した業務のDX化
病院に限らず、従業員を雇用したあとは教育・指導を行いますが、その際には教育コストが発生します。
長く勤務してもらうことで教育コストを掛けなくて済むため、離職率の低減は重要な課題です。
また、仕入れ先の変更や他施設とのベンチマーク比較など、コストの最適化も重要課題のひとつだと言えます。
近年では業務効率の改善を目的として、ITツールを活用した業務のDX化が進められています。
これらを実施することで、赤字から脱却して、黒字経営を維持することができるでしょう。
おわりに
本記事では、病院経営が赤字になる主な要因と黒字化に向けた8つの対策について解説しました。
医療の質を守りつつ、経営の安定を図るためには、課題の本質を捉えた戦略的な対応が欠かせません。
外部支援やデータ活用、組織体制の強化など多角的な視点から経営改善に取り組むことで、持続可能な医療提供体制の構築が可能になります。

MRP医療コラム編集部

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