病院経営の危機を「協働」で乗り越える|群馬県4団体による診療材料共同交渉の取組み
2026.01.08医療経営
病院経営を取り巻く環境は年々厳しさを増しています。
医薬品や診療材料の価格高騰、変動費・人件費の増加、業務委託費の上昇など、支出は増え続けています。
一方で診療報酬の伸びは限定的であり、多くの病院が増収減益の状況に直面しています。
こうした中、個々の病院が単独で価格交渉を行う従来の方法に加えて、複数の病院による共同での取組みが進行しつつあります。
令和7年6月、群馬県内の4団体7病院が診療材料等の共同価格交渉に関する連携協定を締結しました。(令和7年6月13日「文教速報」)
同じ地域の中で設置主体の異なる病院が手を取り合い、経営基盤の強化に挑む全国的にも注目される取組みです。
本記事では、この協定が生まれた背景や具体的な体制、取組みの進め方について解説します。
病院経営の改善を模索する医療機関の参考となれば幸いです。
病院経営が直面する課題と共同交渉が求められる背景
深刻化する病院経営の現状
近年、病院経営は非常に厳しい状況に置かれています。
令和7年度の見込みでは、全国42の国立大学病院のうち33病院が現金収支で赤字となる見通しです。
その総額は約330億円に達し、損益ベースでは400億円を超える可能性があります。
令和6年度と比較すると、赤字病院は25病院から33病院へと8病院も増加しました。
この背景には、複数の支出増加要因が重なっています。
まず、医療の高度化に伴い、高額な医薬品や診療材料の使用量が増えています。
医療費全体では前年度比で258億円、約4%の増加となりました。
次に、エネルギー価格の高騰により光熱水費が9億円増加しています。
さらに、働き方改革や人事院勧告への対応により人件費は325億円、約6%増加しました。
業務委託費や保守費等も89億円、約4%の増加です。
収入が伸び悩む中で支出だけが膨らみ、多くの病院が増収減益に陥っています。
共同交渉という新たな選択肢
従来、診療材料等の価格交渉は各病院が個別に行ってきました。
こうした中、複数病院が連携する共同交渉という手法も選択肢として広がりつつあります。
共同交渉が注目される背景の一つに、事務職員の人事異動があります。
一般企業と同じく、多くの病院では一定期間で担当者が入れ替わることがあり、ノウハウの蓄積や継承が課題となるケースもあります。
共同交渉では、複数病院の担当者が知見を共有することで、こうした課題に対応しやすくなります。
また、共同交渉では複数病院の購入量を束ねることで、「規模の力」を活かした交渉が可能になります。
単独での交渉とは異なるアプローチとして、選択肢の一つになっています。
大学病院改革ガイドラインが示す方向性
令和6年3月、文部科学省は「大学病院改革ガイドライン」を策定しました。
このガイドラインでは、大学病院改革を4つの視点から整理しています。
運営改革、教育・研究改革、診療改革、そして財務・経営改革です。
特に財務・経営改革では、診療材料費の削減に向けた具体的な取組みが求められています。
効果的かつ継続的な価格交渉として、ベンチマークの活用や民間医療機関を含めた共同交渉等が明記されました。
国としても、病院単独ではなく連携による経営改善を推進する姿勢を示しています。
こうした背景から、設置主体を超えた病院間の「協働」が新たな選択肢として注目されるようになりました。
群馬県4団体7病院による連携協定の概要と体制

設置主体を超えた連携への道のり
令和7年6月、群馬県内の4団体が診療材料等の共同価格交渉に関する連携協定を締結しました。
参加したのは、群馬大学医学部附属病院、前橋赤十字病院、群馬県済生会前橋病院、そして群馬県病院局です。
群馬県病院局には県立4病院が含まれており、合計で7病院による連携体制が構築されました。
注目すべきは、国立大学法人、日本赤十字社、社会福祉法人、地方公営企業と設置主体が異なる点です。
通常、設置主体が異なる病院間での連携は容易ではありません。
意思決定プロセスや会計制度、調達ルールがそれぞれ異なるためです。
しかし、この取組みは約10年の歳月をかけて実現しました。
平成28年5月、前橋赤十字病院を会場に「関東エリア実務者会議 第1回群馬分科会」が開催されました。
14施設28名が参加し、地域の病院同士が顔を合わせる機会が生まれました。
翌年には群馬大学医学部附属病院で第2回が開催されています。
実務者会議を重ねる中で、地域をつなぐ「コミュニケーションの力」の重要性が実感されました。
各病院が抱える課題を持ち寄り、対話を重ねることで共通のテーマが明確になったのです。
コスト削減、安定供給、医療の質確保といった課題は、どの病院にも共通していました。
そして令和7年5月にキックオフ会議が開催され、翌6月に正式な協定締結に至りました。
協定の目的と連携事項
この協定は、参加団体が相互に連携することを目的としています。
それぞれが有する人的・物的・情報資源を有効に活用し、診療材料費等の低廉化を図ります。
最終的には病院経営に資することが目標です。
協定に基づく連携事項は3つ定められています。
1つ目は、診療材料費等の価格情報の共有に関する事項です。
2つ目は、診療材料費等の共同価格交渉に関する事項です。
3つ目は、その他目的を達成するために必要な事項です。
具体的な取組内容としては、診療材料等の共同交渉・連携推進が挙げられます。
また、物品の調達・購入方法の最適化とコスト削減も含まれます。
さらに、データ分析・事務手続きの効率化による業務負担軽減も目指しています。
「群馬の未来を守る」という理念のもと、持続可能な医療を共につくる姿勢が示されました。
3層構造による推進体制
共同交渉を効果的に進めるため、明確な役割分担に基づく体制が構築されました。
最上位に位置するのが「病院長会」です。
各病院の病院長で構成され、共同交渉における最高意思決定機関として機能します。
重要な方針決定や対外的な発信はこの病院長会が担います。
次に「部長級会」があります。
各病院の事務部長等で構成され、方法論の検討や進捗管理を担当します。
実務部門の責任者として、現場と経営層をつなぐ重要な役割を果たします。
そして「購買実務部門会」が実際の交渉業務を担います。
各病院の購買担当者で構成され、日常的な価格交渉やデータ管理を行います。
院長・事務部長・実務担当者が一体となり、役割を明確化して取組みを推進する体制です。
なお、参加拡大については明確なルールが設けられています。
初期病院以外が参加を希望する場合は、部長級全員の了承が必須とされています。
また、意思決定機関は初期病院のみで構成し、その趣旨に賛同する病院が参加する形式です。
運営支援には外部の専門機関も関与しています。
共同マスタの作成やデータ分析、交渉対象品の選定などを支援しています。
グループベンチマークシステムを活用し、全階層にデータを提供する仕組みが整えられました。
共同交渉の具体的な進め方と今後の展望

共同マスタの作成と交渉対象品の選定
共同交渉を進めるにあたり、まず取り組んだのが共同マスタの作成です。
各病院が購入している診療材料のデータを集約し、一元的に管理できる仕組みを構築しました。
このマスタには、購入数量、単価、納入業者などの情報が含まれています。
参加団体内における自院の立ち位置を把握し、目標値を設定することが可能になりました。
グループベンチマークシステムを活用することで、同一商品の価格差が可視化されます。
ある病院では安く購入できている商品が、別の病院では高値で取引されているケースも判明します。
こうしたデータをもとに、交渉ターゲット品を選定していきます。
各施設間で基準価格になった場合の影響額等を算出し、優先順位を決めていきます。
令和7年度の共同交渉では、対象品目数は3,585品目に上りました。
メーカー数は418社、業者数は35社が交渉対象となっています。
年間の削減目標額は合計で約1億5,100万円と設定されました。
メーカー・ディーラーへの交渉スキーム
交渉の基本方針は、各施設の現行業者を交渉対象とすることです。
業者を一本化するのではなく、価格統一による持続可能なコスト削減を目指しています。
共同交渉施設を「1つの大病院」と見立て、全購入量見込みを基に価格交渉を行います。
従来は同一業者・同一商品でも、病院ごとに価格が異なることが一般的でした。
業者が異なれば、さらに価格差は広がります。
共同交渉では、購入量に見合った同一商品・同一価格を目指します。
ただし、施設ごとに納入業者が異なることは許容しています。
既存業者との関係維持は各病院で対応する形です。
メーカーに対しては、商品統一の提案を優先的に考慮する姿勢を示しています。
結果的に、メーカーは1病院への提案が複数施設への営業と同様の効果を生む可能性があります。
ディーラーに対しては、3つの姿勢を明確にしています。
1つ目は基本責務の徹底です。
期日内納品やメーカーとの価格交渉など、納入業者としての責務を全うすることを求めます。
2つ目は価格低減を阻害する要因の排除です。
「メーカー側の非協力」「購入量の少なさ」「配送の非効率」といった従来の障害を排除します。
3つ目は新規参入の促進です。
共同交渉施設として新規業者の門戸を開放し、販路拡大の機会を提供しています。
令和7年6月には、メーカー・ディーラー向けの説明会が開催されました。
4団体の病院長名で案内状が発出され、共同交渉の趣旨が説明されました。
進捗状況と見えてきた成果
令和7年10月時点での第2回見積もり回収結果では、一定の成果が見え始めています。
共同交渉品のみで削減額合計は約4,670万円となりました。
削減目標額に対する達成率は全体で約31%です。
さらに、共同交渉品に加えて各病院独自の品目についても同時に交渉を行っています。
病院単独品も含めた合計削減額は約8,500万円に達しています。
群馬大学医学部附属病院では、診療材料大手メーカーの営業責任者級と事務部長面談を実施しました。
ベンチマークでの立ち位置を説明し、協力を求める交渉を行っています。
全品目でベンチマークの全国平均以上となるよう、粘り強い交渉が続けられています。
今後の展望と目指す姿
今回の取組みは診療材料が中心ですが、対象範囲は今後拡大していく予定です。
医薬品、検査試薬、外注検査に加え、医療機器なども含めた共同交渉を展開します。
広範囲でメリットを生み出すことが次のステップです。
また、物流の統一化も視野に入れています。
間接的・直接的な物流経費の抑制を図ることが狙いです。
一物一価一仕入先の実現により、さらなるコストメリットも期待されます。
ただし、物流と購買は切り離して考える方針です。
適正価格による購入と適正な物流経費を、共同交渉施設で享受することを目指しています。
さらに、群馬県病院協会や群馬県医師会等と連携して参加病院の拡大を図り、令和8年4月から「オール群馬で共同調達!」の取組が開始されます。
長期的にはこの取り組みを基礎として、「群馬地域フォーミュラリー」の構築、最終的には「地域医療連携推進法人」の設立を目指します。
おわりに
群馬県における共同交渉の取組みは、診療材料費の削減を目的とした施策にとどまらず、病院経営の在り方そのものを見直す取組みと言えます。
設置主体の異なる病院が連携し、価格情報や購買データを共有することで、個別病院では得られなかった交渉力を生み出しています。
また、共同マスタの整備や明確な役割分担に基づく体制構築により、属人的になりがちだった価格交渉業務の標準化も進んでいます。
診療材料費の適正化は、単なるコスト削減ではなく、限られた経営資源を医療の質向上や人材確保へ振り向けるための基盤です。
今後、対象品目の拡大や参加医療機関の増加が進めば、地域全体での更なる経営改善効果も期待されます。
群馬県の事例は、共同交渉という新たなアプローチを検討する医療機関にとって、実務的な示唆に富む先行事例と言えるでしょう。
MRP医療コラム編集部
最新記事 by MRP医療コラム編集部 (全て見る)
- 病院経営の危機を「協働」で乗り越える|群馬県4団体による診療材料共同交渉の取組み - 2026年1月8日
- 病院経営を支える購買管理とは?医療材料コスト最適化の具体策 - 2025年12月23日
- 医療材料の最適な管理|正しい商品マスタによる管理の重要性 - 2025年12月23日


病院経営のコスト削減とは?種類と5つの実践ステップを詳しく解説
病院経営の成功には看護師のコスト意識が不可欠!
病院経営を支える戦略的パートナー|病院コンサルの利点と選び方
【経営者必読】病院のコスト削減ガイド|実践的アイデアと成功事例
長期収載品の選定療養の基本|対象品目や計算方法をわかりやすく解説
病院経営を支える購買管理とは?医療材料コスト最適化の具体策